バッテリーⅢ(あさのあつこ/角川書店)

バッテリー 3 (角川文庫)
■粗筋
 前回の騒動で活動停止になってしまった、新田東中学校野球部。最高の球を投げたい、それだけを願っている巧は、自分の気持ちだけで野球が出来ないもどかしさに苛まれていく。その後、野球部の顧問である戸村が、野球部活動再開を告げる。そこで同時に発表された練習試合の開催。しかし校長は首を縦に振らない。彼らは実力を見せるため、紅白戦を行うことになるが――。
 一方でバッテリーである巧と豪の二人にも、一波乱が起きる。心の中を知れない、そして信じきれなかった巧に、豪は言った。
「ひきょうもの」


■感想
 これまたいい作品でした。最後が少し急展開過ぎた感がありますが、それを除けば、やはり楽しめる作品だったかと。
 今回のテーマは、大きく見れば前回に引き続き「巧と周囲の軋轢」という関係になっている。しかし、今回の場合は脇役も熱い。自分の気持ちにまっすぐ生きる巧に対して、世間との折り合いをつけることを良しとし、それをしない巧を嫌う一部の野球部員。彼らにも確固たる主張があった。確かに言っていることは「中学生」なのだが、逆に彼らでしか響かない言葉でもある。それに、豪もとてもいい。多少考えが大人び過ぎている彼だが、それでも純粋さは欠けていない。巧の球を捕るのは自分しかいない。それなのに自分を信用してくれない。葛藤の中で、気持ちをぶつけ、より上手くなろうと決心する。まさに青春。主人公である巧も、もちろん熱い。彼は何ていうか、妙に鋭角的である。しかし、周囲の環境に変化を見出し、その鋭さが少しづつ変化していく。友情、チームワーク、精神論、そして野球。この少年がどう変わっていくのか、もしくは変わらないのか。本当に楽しみだ。
 一方で、校長先生の主張もボクは好きだ。彼は実に的を得たことを言っていると思う。一般的な大人の回答と置き換えてもいい。それに対し懸念を持つ少年たちが、どのような心情を持つのか。それを追って見るだけでも、これは十分楽しめるのではないかと思う。
 さて、この本には短編が書き下ろしで載せられている。弟の青波をメインに据えた作品だったが、これはあんまり好きではない。何というか、彼女の「カラー」が出ていないからだと思う。文章が上手い・下手ではなく、こういった文章なら別の作品で読んでみたいと感じるのでありまする。例えるなら、麻枝さんがきのこさんの文章を真似て面白いか、ということ。良さが消されてしまうのは、少し残念だった。うに、カラーって大事だのぅ。